安全に集団走行するために

1. はじめに
集団走行する際に一番大事にしているのは全員が無事に走り終えることです。
一人で練習している場合も含めて、バイク練習で安全以上に大事なことはありません。きちんと自転車をメインテナンスしておくことを含めて自分の安全は自分で確保した上で集団走行している仲間(特に自分の後方の人)の安全を確保し、さらに道路を共有している歩行者などに危ない思いをさせないこと、ドライバーに急ハンドルを切らせたり、急ブレーキを踏ませないようにするのがマナーだと思います。 その上で人数を減らさないようにしています。さらにその中でできるだけいいペースで走ることを目指しています。走り出した全員が同じ集団で、同じ疲労具合で走り終えるのが目標です。自転車はそれができるスポーツだと思っています。 最近、いつ誰がスピードを上げるかわからず、集団内がいつもピリピリした雰囲気になることが多いです。今まで何度かあった誰かが落車してケガをするときの雰囲気です。 私はいろいろなレベルの人が楽しみで参加できるサイクリングクラブを目指していますが、集団内がいつもピリピリした雰囲気だと落車する危険性が高まります。もしこれがレーシングチームの練習だったら、ほかの人に走りづらい思いをさせても、ほかの人が遅れても、レースの一部と言えるので、気にしなくてもよいと割りきれますが、これまで3度、クラブランの最中に骨折するような落車を目の前で見ています。本人も痛いし、治るまで大変ですが、一緒に走っていた人間も本当にいや〜な思いをします。何とかして避けられなかったかと思います。2度と繰り返したくないとも思います。 ランニングの場合、前後の人の足が当たった場合、後ろの人がバランスを崩して転んでも、前の人が後ろの流れた足を取られて転んでも、どちらに原因があっても原因になった人がそれを自覚できるので、それぞれの人の配慮で転倒は防げますが、競輪やロードレースを見てもわかるとおり、自転車の場合、前後の自転車が接触するのは多くの場合、前にいる人の進路妨害であったり、急なスピードダウンであったりします。そしてほとんどの場合、後ろの人が転びます。そして多くの場合、原因を作った前にいた人に自分が転倒の原因になったという自覚がありません。だから競技には審判が必要です。自転車の場合、転倒を防ぐには前にいる人が後ろの人を危険にさらさない配慮が必要です。 自転車の場合、ランニングと違って、後ろの様子を見たり感じたりするのが難しいです。だから自分が原因になってもわからないわけですが、「こう走ったら、後ろはガチャガチャになってしまう」「こう走れば、後ろは安定する」という想像力を働かせて、前にいる人が後ろにいる人たちの安全を確保しながら走るようになりたいと思います。 それでは、私が走行中に注意していることを紹介します。すべてを要求すること自体に無理があると思いますが、バイク練習で一番大事なことは安全なわけで、場合によっては命を落とすこともあるので、先頭の人がやるべきこと、最後尾の人がやるべきこと、先頭交代中の注意など、どうすれば安全に走行できるか、自分が速く走ること以上に大事にしてほしいと思っています。

2. 集団の先頭にいるとき
集団の先頭は、自分の後ろにいる全員が安全に走行できるよう、最も注意が必要なポジションです。つねに前方の安全を確認し、確保することはもちろん、交差する左右の道にも注意します。必要に応じて後方に向けて停止、徐行、右折、左折など手サインを出します。「ママチャリ、歩行者、停車中の車がいる」「段差、穴凹、落下物、ガラス片がある」など前方の路面や道路の状況を逐一(・・)サインで伝えます。 こちらが優先道路を走行している場合は、わき道から出てきそうな車、対向で右折しそうな車、右から左折してきそう車などのドライバーに「すいません、待ってください」のサインを出します。そして待ってくれた場合は「ありがとうございました」のサインを出します。待ってくれそうにない場合は、後方に「止まる」のサインを出して徐行しながら対処します。 後方から追い抜く車が来ていることを伝える声が聞こえた場合は、右手を大きく上に上げて「了解」のサインを出すようにします。 信号や交差点で停止するかどうか適確に判断してサインを出します。集団の人数・顔ぶれ(取り回しの上手い人・下手な人の配置など)を考え、最後の人までクリアできるときは「Go」のサインを出して通過。もしクリアできそうにないときには、早めに「止まる」のサインを出して停止します。横断中に黄色に変わり集団が割れた場合は、路肩に全員が安全に停止できるスペースを見つけたところで停止し、追いつくのを待ちます。ギリギリ通過した後続車が猛スピードで来ていたりするので、交差点を渡ったところで急に停まると危険です。 なお番手以降の人は信号・交差点で渡るか止まるかの最終判断は自分で行います。前が渡ったからといって無防備に交差点に入らようにします。前を待たせることがあっても、あくまでも安全を優先します。また前の人は渡ったけれど自分は停止するという場合、後ろの人に「止まる」のサインを出して停止します。とっさのこともあるので、サインを出せないときは「止まります」と声で伝えます。 集団の先頭にいるときは安全の確保、情報の伝達、ペースの維持に集中します。それ以外で腕を動かすことはできるだけ避けます。給水・補給、ウエアの脱着、手鼻などは先頭にいる間はおこなわず、最後尾に下がるまで待ちます。

3. 先頭交代をする場合
先頭交代は、後方からの車が来ていなさそうなとき(視認しませんが聞き耳を立てます)、交代中に順行と対向の車が自転車の車列の横で行き違わないタイミングを選びます。交通量が多く、そのタイミングが選べないようなところでは、左に自分が逸れることができる十分な路肩があるところ、自分たちもドライバーも見通しがきく前方の視界が開けているところを選ぶようにします。 交代のサインを出すときは、番手以降の人が走行ラインを変たりスピードが上下しないように、サインを出す前も出した後も後ろを見る必要はありません。次の人が出てくるのが遅くても振り返る必要はありません。番手の人に任せて下がります。 右手で交代のサインを出した後は自分がそれまでのラインを直進し、後ろの人達が右にふくらむのは危険ですし、ラインが安定しません。左側にラインをはずれたところでスピードをゆるめます。左側の路面が多少悪くても砂利が浮いていても、本ラインのみんなに一番いいラインを渡します。横幅にあまり余裕がない状況で下がっていくときに脚を止めるとバランスが崩れフラフラするので脚は止めません。並走状態が続かないように左端をすみやか(・・・・・)に(これが大事)最後尾まで下がります。モタモタ並走状態が続くと危険が高まります。必要に応じてブレーキをかけることもありますが、その場合でも脚は止めません。ブレーキをかけながら踏み続けながら下がっていきます。路肩が広い場合は、後退中に給水してもOKです。最後尾まで下がったら、後方に車がいないか確認して加速しながらライン最後尾に入ります。 番手の人が先頭に出るときはそれまでのラインとペースを維持するのが基本です。先頭の人が左に逸れて道を空けて下がっていくので、自分はそのままのラインを、そのままのペースで走ります。ふくらむ必要がないので、後方を見る必要もありません。 先頭で上り坂に入った場合は先頭でその坂を登りきるのが基本ですが、坂の途中で余裕がなくなった場合は、先頭交代のサインを出して下がります。 見通しのよい下り坂でスピードがゆるむと下りの速い人と遅い人が交錯することがあるので、先頭は脚を止めずスピードを維持するように注意します。見通しが悪い場合は、対向車、段差、穴凹など、いつでもサインを出せるようにしておきます。

4. 番手以降にいるとき
先頭の人からのサインを順次忠実に伝えます。それが本当かどうか確認できなくてもまず伝えます。手を動かせない場合は「声」で伝えます。もし先頭の人がサインを出していない場合でも、必要な場合は先に出しても構いません。 ラインを守ります。一般道での集団走行では縦一列になるのが基本です。誰かがラインを守れないと、集団全体がガチャガチャになります。先頭の人は最も安全なラインを走行するはずなので、それをなぞるのが最も安全ですし、空気抵抗も最も軽減されるはずです。時速30km/hで車間30センチぐらいでしょう。前を見ようとして右にずれる人が多いですが、先頭の人が落下物や穴を避けるために急に右にラインを変える場合があるので危険です。また路肩の車を避けたり、右折する前に先頭の人が後方を確認する場合、番手の人が右後ろにいると視界が遮られるので邪魔になります。前の人の雰囲気・意識を後ろから読み取る訓練をして、無意識でも動きをシンクロできるようにします。一緒に走ることが多いメンバーの癖も覚えておくといいですね。 余裕がなくなり中切れしそうな場合は、前の人との車間が1車身を越える前に、後ろの人に「前に入ってください」のサインを出します。もしサインを出さないとしたら自力で追いついてください。 後続車に追い抜かれているときに対向車が来て、車が集団を追い越しきれないときには、自分の前に車が入れるようにスペースを空けて、そこで一旦待ってもらいます。最近はさらりと自転車を追い抜けない危なっかしいドライバーも多いので、そういう車と並走することもできるだけ避けます。

5. 最後尾にいるとき
最後尾も安全管理上、大事なポジションですが、ないがしろにされています。 見通しの悪い箇所や、道幅が狭い箇所などで、集団が車に追い抜かれるときに危険がありそうなところでは、後方から車が来ていないか定期的に視認します。最近はエンジン音の小さいハイブリッド車も多いので、音だけに頼るのはむずかしいと思います。大型の車や、車が数台続いている場合など特に注意が必要な場合は、全員に聞こえるように大声で車が来ていることを知らせます。また追い抜きを待ってもらったほうがいいときはドライバーに「待ってください」のサインを出します。このときはちょっとセンター寄りに出て、ドライバーの顔を見てサインを出して、意志を伝えます。そして見通しがよい安全なところに出たところで、待ってくれたドライバーに「ありがとう。どうぞお先に」のサインを出します。

6. 安全走行のためのペース管理
先頭の人のペース管理も安全を確保するための大事な役割です。実力がバラバラな人たちが一緒に走行している場合、ペースが一定せず、集団が伸び縮みしたりすると集団内で接触して落車する危険が高まります。 最も効率的なのは、誰が先頭のときでも、先頭交代中もそのあとも、集団の重心が一定速度(スピード)でスムーズに移動するような走り方です。ただし速度も傾斜や風によって流動的なので、負荷強度を一定に保つイメージのほうがいいかもしれません。 集団内で一番余裕がない人をエースだと思って、その人が遅れないようにペース配分します。そのためには余裕のない人にハイパフォーマンスを発揮させるようにします。走り出し(休憩後の走り出しも含めて)には心拍数を急に上げさせたり、乳酸を溜めさせたりせずに、スムーズに最適運動状態にさせて、それを保たせるようにしています。余裕がない人に無理をさせると、集団が伸びたり縮んだり、斜行する人がいたり、遅れる人と前に行きたい人が交錯したり、車輪が絡んで落車する危険性が高くなります。ロングライドの序盤に余裕のない人に無理をさせれば、ライド全体のクオリティーが下がります。先頭を交代して後退していくときにみんなの余裕具合を確認して、その都度ペースを微調整して集団が安定するようにします。 先頭交代後、番手の人が先頭に出る場合、それまでのスピードを維持するのが基本ですが、これがなかなかできないですね。先頭交代のサインを出されたからといってスピードを上げる必要はありません。というより上げないことが大事です。受け継いだスピードを維持するようにします。例えば時速30km/hで受け取ったら時速30km/hを維持します。空気抵抗が変わるので、この辺のところは教えてできる人とできない人がいますが。集団の2、3番手の人が離れて慌てて追いついたり、一旦たれて踏みなおしするような緩急がつかないようにします。 余裕のない人は守られるだけでよいかというと、そうも思いません。多くの人の脚が余った状態というのもとても危険な状態なので、もし自分以外の人たちが30km/hで走りたいのに自分だけ28km/hでしか走れないのであれば、次までに30km/hで走れるように努力してください。集団内にいる間は、受け取ったペースを維持できるようにします。 周回練習では徐々にペースをビルドアップしています。物足りないペースでスタートしても先頭交代を繰り返しているうちに、特にペースを上げなくても余裕のない人は遅れます。登り坂でやや遅れてしまっても、追いつく意志があれば手伝います。自分の先頭の番を終えて下がりながら自然に遅れるのが最も安全な遅れ方です。人数が減り交代する間隔も短くなり、ペースも徐々に上がります。余裕のある人は、4周目5周目になってから、先頭に出たときにしっかりペースメイクしてください。そこが頑張るべきところです。

(藤原裕司)